服部半蔵
オープニング
二人目
ナコルル登場
五人目
朧衆戦前
朧衆戦後
ボス戦
エンディング
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月明かりに照らし出される江戸城。時の幕府将軍である公方自らが座して、その者が現れるのを待っていた。
静寂の中、脇にあるロウソクの炎が揺らめく。と、畳の中央には白い扇子が立てられていた。
立った扇子を凝視する公方の視線から、さらに後ろで平伏する影がある。
「半蔵か、おまえにしては酔狂なことをするではないか」
おもわず公方の口から声が漏れる。問い掛ける公方の声に影も反応する。
忍び頭巾から鋭い視線が覗き、
「服部半蔵、御直御用の命有りと聞き、只今参上仕りました」
公方が任を伝えると、音もなく外の闇へと消えていく。半蔵の消えた闇を見すえながら公方がつぶやく。
「あやつめ……。歳をくうても昔のままの気迫……忍びとは斯く有るべきか」
半蔵の消えゆく闇は大海にある出島へと続く。
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チョビ助「おやび〜ん。待ってくだせぇ〜」
臥龍「チンタラすんじゃね〜や、ちょび、オゥ」
チョビ助「そ、そんなぁ〜速すぎるんでさぁ、おやびんがぁ」
臥龍「オゥ、そんな事よりこんな牢屋とはよ……さっさとオサラバしようぜ、オゥ」
チョビ助「へいっ、がってんでさぁ〜」
臥龍「んっ!? ちょっと待てや、ちょび」
チョビ助「なんでやす、おやびん」
臥龍「……オゥ!!」
チョビ助「へいっ!!」
臥龍「お前じゃねぇ〜や、ちょびこう」
チョビ助「へっ?」
臥龍「オゥッ! そこの闇でコソコソ隠れてるネズミヤロウ! 出てこいや、オゥ」
半蔵「黙ってやり過ごせば、死なずにすんだものを」
臥龍「なんだと、オゥ。この山賊中の山賊……つむじ風の臥龍にむかってやり過ごせだと、オゥ!!」
チョビ助「おやびん、カックイーッ! カックイイッスよ!!」
臥龍「オゥ、ちょび助。隠れてな」
チョビ助「ヘイッ、もう隠れてやす」
半蔵「おぬしに恨みはないが、姿を見られては仕方がない。闇に滅せよ」
臥龍「オゥ、しゃらくせい。やってやらあ、オゥ」
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ナコルル「お願い……。助けて、暗黒の闇が……。黒い力が……。破壊が……来るの……。
どうか……。あなたの……力で……。邪悪な力を……止めて……下さい。覇業三刃衆を……」
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伊賀忍者「待てっ!! そこの男」
覇王丸「待てとはオレの事かい?」
伊賀忍者「昨夜あの森で、我らが話、盗み聞きしていたな」
覇王丸「おいおい、人聞きの悪いこというんじゃねぇ〜ぜ。オレは、ただ星を見ていた。イイ星空だったんでね」
伊賀忍者「フン!! 問答無用!」
半蔵「待て!!」
伊賀忍者「おっ御屋形さまっ!」
半蔵「お前達が何人かかろうとも勝てる相手ではない。下がれっ!!」
伊賀忍者「しかし……」
半蔵「下がれと言うたのだぞ」
伊賀忍者「ハッ、ハハッ!!」
覇王丸「……久しぶりだな、半蔵」
半蔵「お久しゅうござる、覇王丸殿。部下の無礼、お許しくだされ」
覇王丸「影となり、闇に生きる忍びの道。仕方のない事だ」
半蔵「かたじけない」
覇王丸「だが、なぜこんな所に伊賀者がいる?」
半蔵「…………」
覇王丸「三刃衆!! まさか幕府が動いたのか?!」
半蔵「主君に仇なす者あれば、そこに影あり」
覇王丸「そうか、とうとう幕府が動いたか。半蔵、すまねえがオレに時間をくれねえか?」
半蔵「時間?」
覇王丸「三刃衆の件、オレに預けてはくれねえか」
半蔵「…………」
覇王丸「オレの刀に賭けて、何とかする」
半蔵「覇王丸殿。それは出来ぬ相談です」
覇王丸「……おめえ、もしかして?」
半蔵「覇王丸殿!! 影は生まれし時より影。我ら影は、おのが過去をも斬り捨てねばならぬ宿命」
覇王丸「そうか……。我が手で救った命、できれば斬りたくねえ。どうしても、抜くのか?」
半蔵「はい」
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ナコルル「私の話を聞いて。私の名はナコルル。光の巫女。あなたにお願いがあるの。
今、あなたの目指している人は、恐ろしい人達の仲間。その人達の名前は、覇業三刃衆。
邪悪な意志を継ぐ恐ろしい人達……。二十年前……。邪悪な意志の元となった人物が現れたの。名前は朧。
その人物は、今の世の中を混乱させて、強い者だけが生き残る国を創ろうとしているわ。
その時に朧は、邪魔になる私たち光の巫女を恐れて封印したの。お願い。私はもうこれ以上うごけないから。
でも、もう一人の光の巫女。彼女ならきっとあなたの助けになるはずよ。彼女はこの先で永い眠りについているわ。
お願い、あの娘を助けてあげて。名前はリムルル。私の妹なの」
朧衆「光の巫女を助けに来ただと。己ごときの力量で我々を倒しに来たとは笑止!返り討ちにしてくれるわ。覚悟!」
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ナコルル「ありがとう。もうすぐこのリムルルも目を覚ますわ。貴方が傷つき、先の道へ進めなくなった時、リムルルがあなたの助けになると思うの。
ありがとう……。どうか……邪悪な意志を……滅ぼして……」
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朧「来たかよ、半蔵」
半蔵「お前が三刃衆の頭、朧だな」
朧「フォフォフォ。知らぬような顔をするなや、半蔵」
半蔵「我が主の命により、三刃衆を殲滅する。覚悟せよ」
朧「あくまで知らぬふりかよ、半蔵。それとも、覚えておらぬと言うのか?」
半蔵「…………」
朧「数十年前のあの時より一族を追われ、うぬを血祭りにあげる事のみを糧に今日まで生き抜いてきたのじゃ。
クカッカッカッ、オゥオゥ大師殿も喜んでおるわい」
半蔵「大師? ……やはり慈限大師殿が生きておられたか」
朧「そうよ。うぬらの汚した世の中を滅ぼし、新しい世を誕生させる為、あのお方は永遠の生を得たのじゃ」
半蔵「永遠の生?」
朧「カッカッカ。その秘密知らぬまま、死ねや半蔵!」
半蔵「おやじ殿も、罪な事をしてくれる」
朧「何をブツブツ言うておる。我が全霊を賭けてちぎり殺してくれるわっ!!」
半蔵「我が名は服部半蔵。影の名においてお前を殲滅する」
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半蔵「主君に仇なす者、それがたとえ業魔の者であっても、我ら影、これを殲滅する。
朧よ、我が名にどのような恨みを抱いていたかは、今となっては知る由もないが……道を誤ったと知れ」
伊賀忍者「御屋形様!」
半蔵「慈限大師のお姿、見つかったか?」
伊賀忍者「はっ!! この城の地下深くの石室にて、御姿を確認してございます。しかしながら……大師様、即身仏となりて朽ち果てておられました」
半蔵「即身仏だと? ……永遠の生とはこの事か。承知した。皆の者、大師殿の亡骸に柩をもて。
これより江戸に帰還し、速やかに埋葬せねばならぬゆえ」
伊賀忍者「御意」
半蔵「幕府創成に関わりのある御坊が、主君に仇なす根源などと世に知られる訳にはゆかぬ」
伊賀忍者「御屋形様、実はもう一つ奇妙な事が」
半蔵「妙?」
伊賀忍者「はっ、それが大師様のお顔が……朽ちてなお妖しげに笑みを浮かべておられるような……」
半蔵「面妖な……恐るべきは慈限大師……。それほどまでに国家転覆を祈願なされておったとは。
そのような亡骸など、主君にお見せする訳にはゆかぬ……」
(江戸城内)
老中「と、殿!! 一大事でございます」
公方「……何事じゃ?」
老中「庭に奇怪なる物が!!」
公方「奇怪な物?」
老中「折れた三振りの刀と共に、柩のような物が……」
公方「何!! 柩じゃと……」
(公方、老中、お侍数人が庭に置かれた輿に集まる)
張り紙『御直御用の命、完了仕り候。天下に仇なす三振りの刃、全て折れ砕け候。かくて、天人僧が亡骸、納めし柩これにて候。影』
公方「『影』? ……半蔵ではないか! 早くその柩を開けい!!」
老中「たっ、ただ今!!」
公方「何っ……? 何だこれは……。何故、大師は背を向けておるのだ?」
老中「なんとも面妖な……。殿!! 背中に何か書き添えられておりますれば……」
公方「何々……」
張り紙『大師殿、臨終の際主君に仇なした事を恥じ、主君に顔向け出来ぬとの御遺言。屍は何も語りませぬゆえ、速やかに密葬されたし』
公方「……くっ……くくくくはははは……。半蔵めが、何と言う奴じゃ。何はともかく、鎮護国家は成った。天晴れじゃ……」
(伊賀の屋敷内。半蔵が立つ前に伊賀忍者たちが控えている)
半蔵「皆の者、本当に良くやった。公方様もさぞ喜んでおられることだろう。ご苦労であった」
伊賀忍者「御屋形様!!」
半蔵「どうした?」
伊賀忍者「我ら影一同、御屋形様と共に!!」
半蔵「オヌシたち……。その言葉、この半蔵、オヌシたちに義を以て代えさせてもらうぞ」
伊賀忍者「はっ!!」
(満月の見える屋敷の屋根の上)
謎の男「真に影なるは、人知れず寄り添い守る者なり。真に影なるは、人知れず忍び生きる者なり。真に影なるは、人知れず老い朽ちる者なり。
我もまた、忍ぶ道を歩んだ者なり。
せがれよ、おまえの名は、服部半蔵。真に影を統べる者なり。……よくやった」