九鬼刀馬
オープニング
ナコルル登場
五人目
八人目
十人目
十三人目
エンディング
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離天京の覇業三刃衆が住む城郭の最上階。
月夜の光の下、白い肌に赤眼の九鬼刀馬が、剣気を放ち精神集中している。その背後に忍び寄る影。
次の瞬間、烈風のような直線的な突きが、好々爺の額の寸前で止まっていた。刀馬は表情を微動だにせず、
見下ろして好々爺に言葉を吐き捨てる。
「キサマ、次はないぞ」
この好々爺の正体は、刀馬と同じく三刃衆の一人、朧であった。
「ふぉふぉふぉ、そう怒られますな。刀馬殿に良い知らせを持ってまいった」
そう刀馬をいさめてから、九葵蒼志狼が公儀隠密の命をうけ、離天京に入ったとの報を伝える。
皆伝の太刀に隠されていた証文。暁色の輝きを放つ己の愛刀と、義父の実子・蒼志狼が持つであろうもう一本の太刀。
奴なら証文の謎を知っているはず。
……色素欠乏という呪われた肉体
……陰惨で絶望的な幼少期
……強さへの憧れ
……秘剣という希望の光
……強さへの執着
師である義父を殺す事さえ、この心は厭わなかった。その先に、最強という称号があるならば……。
「蒼志狼……オマエが来ずとも、この俺から出向いてやる」
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ナコルル「お願い……。話を……聞いて……。
どうか……。お願い……。私の……話を……」
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迅衛門「……!! な、なんと、お主は刀馬!」
刀馬「老いたな、迅衛門」
迅衛門「三刃衆に鬼神の如き剣士がおると聞いていたが……こんな所で出会うとはな」
刀馬「フン! 今だ腐った世のために励んでいようとはな」
迅衛門「育ててもらった恩も忘れ、親をもその刃にかけた……ヌシには分かるまい。それこそが武士道っ!!」
刀馬「フン、オマエたちには見えない次元もある」
迅衛門「ならばとくと見よ!! 武士の生き方をっ!! これが侍の魂じゃっ!!!」
刀馬「笑止」
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灰人「やっと見つけたぜ。あんまり手間取らせんなよ」
刀馬「貴様、何者だ?」
灰人「何いってんだ、オメエ。この前見ただろ」
刀馬「見た?」
灰人「オレの事見てただろ」
刀馬「失せろ。死にたくなければ、己の立場をわきまえろ」
灰人「驕るな」
刀馬「消えろ。生きていたいのなら」
『ブチッ!!』
灰人「オメエよ、濁ってんだよ。濁った色はイラツクんだよ!!」
刀馬「ネズミに言葉は通じない様だな」
『ブチッ!! ブチッ!! ブチッ!! ブチッ!!』
灰人「ダマレ!! ……テメエは、ダマッテ狩られろ」
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ナコルル「お願いです。どうか、私の話を聞いて。私は光の巫女。名をナコルルと言います。
私は朧の呪術によって、ここでは力が出せないの。朧は邪悪を滅ぼす光の巫女の存在を恐れているから。
そして今、ついに朧が動き出してしまった。このままでは、弱い者が生きていけない世界になってしまう。
しかし、それは貴方の目的ではないはずです。貴方は剣の道を選んだ人。剣の道を極めんとする人。
破壊とは何ら関係の無いはず……。お願いです……。これ以上、邪悪な意志を身にまとった朧に近づくのはやめて……。
そして、信ずる剣の道を。正しい剣の道を選んで。封印が……強く……なって……きた……。もう……だめ……。
どうか……貴方の道を……選んで……」
(暁村)
お侍「たっ助けてっ!! 助けてくれっ!」
銃士浪「オッ、オイ?」
お侍「助けてくれ! 鬼だ! あっ、あいつは鬼神だっ!!」
銃士浪「そうか、鬼神とは面白い話だが、敵に助けを求めるなんて、斬られても文句は言えねえぜ」
お侍「さっ榊!! ヒィィーッ!!!」
銃士浪「オイ!! 冗談だ……。何だ、あいつ? 何だか騒がしいヤツだなぁ。……ん?」
刀馬「…………」
銃士浪「おっオマエ……刀馬?」
刀馬「榊とは。貴様も腑抜けたようだな、十四郎」
銃士浪「ああ、嫌になっちまったんでね、侍が」
刀馬「フン!!」
銃士浪「それより、オヤジを殺したって風に聞いたが本当か?」
刀馬「ならば斬るか、龍巳十四郎!!」
銃士浪「…………。いや、やめとくよ。人の生き方に干渉できる身分じゃないんでね。じゃあな」
刀馬「三刃衆、朧」
銃士浪「……!! 何故オマエがその名前を」
刀馬「今は故あって同胞の身」
銃士浪「で!! ヤツは今何処にいる!!」
刀馬「知りたくば、オマエの剣で聞け」
銃士浪「…………」
刀馬「どうした、十四郎。御庭番で唯一オヤジをも凌ぐとまでうたわれたその剣、錆びついたか?」
銃士浪「すまねえな、刀馬。立ち止まれねえんだ。立ち止まっちゃいられねぇんだよ、オレは」
刀馬「その獣の目……錆びついてはいない様だな」
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刀馬「待っていたぞ、蒼志狼」
蒼志狼「…………」
刀馬「まさか我が流派の証がもう一刀あるとはな」
蒼志狼「オヤジは何も言わなかったのか」
刀馬「オレの誤算だった。言う前に斬り捨ててしまったようだ」
蒼志狼「刀馬っ!!」
刀馬「蒼志狼……オレが憎いか?」
蒼志狼「勘違いするな、オマエの流派じゃない。オレの流派だ」
刀馬「……変わらぬな、オマエは。ならば、昇れるか蒼志狼! オレより高い次元に!!」
蒼志狼「オマエはオレの場所じゃない」
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刀馬「オレの流派だと……。笑止。弱き者は、強き者に喰われるが運命。その刀貰い受けるぞ」
(刀馬の前で立ち上がっている蒼志狼)
蒼志狼「……オレの刀だと言ったはずだ」
刀馬「……まだ生きていたか」
蒼志狼「言ったはずだ。オマエはオレの場所じゃない」
刀馬「黙っていれば生きられたものを。キサマの行き場所は決まっている。あの世だっ!!」
蒼志狼「刀馬、覚えておけ……天上天下唯我独尊。たとえ、仏が立ちはだかろうとも俺は俺の道を行く」
刀馬「フッ……ならば最後の力を使って、我が首に喰らいついてみろ!!」
蒼志狼「オマエはまだ気づかないのか、自分が怯えている事に。まるで怯えきった猫だな」
刀馬「怯えているだと……なめるな、蒼志狼!!」
刀馬「………………………………蒼志狼。……何故だ。……怯え……だと。……この刀馬が」
???「刀馬……刀馬、刀馬様……」
(自室に引かれた布団に寝かされている刀馬。傍らに座る命)
命「刀馬様……」
刀馬「……命……か」
命「良かった……。生きていてくれて……」
刀馬「生きて?」
命「はい……。三日三晩、刀馬様は眠り続けていたのですよ」
刀馬「眠っていた? ……蒼志狼……ヤツは!!」
命「刀馬様、あなたはあの方に敗れたのです……」
刀馬「何だと!! では、何故生きている!!」
命「蒼志狼様は、言っておられました。刀馬様の氷の心が溶かされた時、あなたの大河は流れ出すだろうと……。
そして私にあなたを託されて、あの方は去っていかれたのです」
刀馬「あの蒼志狼が、オレを生かしただと……。命、オマエがオレを介抱したのか?」
命「……はい」
刀馬「そうか……すまなかった……」
命「刀馬……様……」
刀馬「命、オレを外に連れ出してくれるか」
命「は……はい」
(天幻城のバルコニーに出た刀馬と支える命)
刀馬「……美しい空だ、命よ……蒼志狼は言っていた。ヤツの目指す場所はあの美しい空だと……」
命「あの方らしいお言葉ですね」
刀馬「…………。蒼志狼……オマエは……オマエは未来永劫この空を……キサマを見上げて生きろというのか」
命「刀馬様?」
刀馬「この忌まわしき無限の空を見上げて、生き恥をさらせというのか!!」
命「……何故……」
刀馬「軟弱な、この軟弱なる精神がヤツとオレの差か!! まだだ。オレの目指す領域は、絶対的零!!
このままでは終わらん、蒼志狼。この身を生かしたキサマを、オレは許さん」
命「どうして……あなたは何故あの方を……。人の心を受け入れようとしないのですか!!」
(命を振り向く刀馬)
刀馬「命よ……何故泣く……。オマエ……オレを愛しているのか?」
命「あなたは愛しい方……だから悔しいのです。あなたの心がどんどん凍りついて行く。私はそれを溶かしたい……」
(バルコニーに顔を向ける刀馬)
刀馬「溶かすだと? …………。フッ、オレの心になど誰も踏み込めん。俺は、誰よりも深く高い次元に君臨する。
命よ!! オレを愛しているならば、その為の糧となれるか!!」
(命の真摯な横顔)
命「それで……それであなたが救えるならば……。私は、この身を捧げます」
(バルコニーから飛び降りる刀馬)
刀馬「ならば待っていろ、オレは再び戻ってくる。オマエとヤツを我が剣の糧とする為に!!」
命「刀馬様!!」
(バルコニーに蹲る命)
命「…………。刀馬様……」