7人の神闘士たちは、雷霆神の巨大な館・ビルスキールニルへと突撃した。 前地上代行者ポラリスのヒルダと、雷霆神の依り代となった仲間の一人フェクダのトールの救出、 そして雷霆神とその配下・最古の二神と しかし、突撃に際して会議で決定された手順は役に立たずに終わった。 巨大な拱門から突入した神闘士たちは、おそらく"神の力"によって、全員引き離されたのである。 フェンリルは、一人で巨大な扉の前にいた。 といっても、ワルハラ宮謁見室に通じる扉よりは多少小さかったが。 中から歌声が聞こえる。 女の声だった。 あの女だ。 フェンリルは直感する。 初めて、その存在をスタルカドという男に聞かされた時から思っていた。 そいつはトールのためにはならないやつだ、と。 いやな気持ちがしていた。 それは当たっていたのだろう。 アルベリッヒの話によれば、トールに雷霆神を憑依させるため真っ先に動いたのはその女だというのだから。 今彼の隣に、親友の狼ギングはいない。 体調が万全ではないので、ワルハラ宮にあてがわれた自室に置いてきた。 ギングのつがいと子どもたちも一緒だ。 初めての、彼一人での戦い。 目に冷たい光をみなぎらせ、フェンリルは扉を押し開く。 「どういうことだ、これは」 シドはつぶやく。 「わけがわからんが、神の御業とかいうものかな」 バドが言った。 二人は巨大な扉の前に立っていた。 長く続く廊下の壁には、限りなく思えるほど多くの扉が取り付けられている。 (神話によれば雷霆神の館ビルスキールニルは、540の部屋を有しているというが) シドは思った。 そこで二人は同時に耳をそばだてる。 女の歌声が聞こえた。 扉の向こうから。 「この向こうにいるのは女? 兄さん」 シドはバドを振り向く。 「部屋にいるのが 「そうだな」 と、答えた兄が何か言いたそうに思えて。 「兄さん、どうかしましたか?」 「いや」 何か考えている風だったが、バドはそう答えた。 ミーメは広大な広間に立っていた。 広間の奥の壁には巨大な壁画があった。 雲に囲まれた壮麗な城、そこへと続く七色の虹。 虹の赤い部分では、炎が燃え盛っている。 靴音が聞こえた。 同時に歌声がした。 Sat Þar á haugi ok sló hörpu gýgjar hilðir,glaðr EggÞer; gól of hánum Í galgviði fagrrauðr hani,sá er Fjalarr heitir. 白金の長髪を持った美しい男が、朗々と歌っている。 歌の内容は、ミーメには理解できた。 子供のころ、村の老婆が歌っていた。意味も教えてもらった。 ヴェルスパこと、巫女の予言。 世界の始まりと 現れた美しい男――光神ヘイムダルが歌った一節は、次の意味となる。 そこで丘に腰かけ、ハープを奏でていたのは 女巨人の家畜番、陽気なエッグセール。 その頭上、供犠の森で鳴いていたのは 薄紅色の雄鶏、その名はフィアラル。 世界の崩壊が訪れる寸前、それを喜ぶ巨人とラグナロクを告げる鶏を描写した節である。 城と虹の橋が描かれた壁画の前で立ち止った、"黄金ノ巨鶏"ヴィゾフニルの ミーメの持つ 続いてミーメを見た彼は、にっこりと微笑んだ。 (よりによって! なぜ俺がこいつと一緒にいるんだ) ハーゲンは苦虫を嚙み潰したような表情で、隣のアルベリッヒを睨みつける。 「どうやら、最古の二神もしくは雷霆神の力で、我々は引き離されたようですが……」 ハーゲンの視線は気にも留めていない様子のアルベリッヒは広間を見渡し、その視線は広間の最奥で止まった。 「あれは……!」 それらを認めたアルベリッヒの顔が強張る。 (まずい……非常にまずいぞ。一刻も早くここから出なければ!) 広間の最奥に立っていたのは、三体の、塔ほどの高さがあるかと思わせる巨大な長剣。 その前に立つ、鎧をまとった男の姿が見えた。 冷酷かつ険しい表情を浮かべる、"戦ノ父"ヴァルファズルの ジークフリートが気づいたとき、目の前に二人の男が立っていた。 彼らの背後には大きな入り口があり、その上には、厳めしい髭面の男の巨大な像が据え付けられていた。 像の手には槌が握られている。 (フロルリジ―――) ジークフリートは、像から男たちに目を移し、彼らを見据える。 長い白金の髪を持つ美貌の男と、冷たく鋭い目の屈強な男。どちらも豪奢な鎧をまとっている。 最古の二神・光神ヘイムダルと戦神テュールであった。 |