聖闘士星矢・劇場版北欧編「神々の熱き戦い」のボスキャラ・ドルバルはオーディーンの地上代行者を名乗る教主(宗教の創始者のこと)であり、
名前の元ネタは北欧神話のオーディンの息子・バルドルで、そのアナグラムでした。
(公開当時のアニメ雑誌の記事では、元ネタとはまるで違うキャラクターということが言及されていたように思います)
そこから類推すると、「アスガルド編」最終決戦の相手となる、アスガルドの女王・ポラリスのヒルダ(ドルバルと同じく、オーディーンの地上代行者)の元ネタも
製作スタッフがアスガルド編の参考と明言した、ワーグナーの楽劇『ニーベルングの指環』(以下、『指環』)に登場する
神々の王ヴォータンの娘・ブリュンヒルデ……と、思われるのですが。
例えば、同じく『指環』に登場する重要人物のジークフリートは
そのまま"アルファ星ドゥベの神闘士・ジークフリート"に名前が使用されているのですが、
ポラリスのヒルダの元ネタがブリュンヒルデだとして、なぜ名前が"ヒルダ"と変更されたのでしょうか?
(ちなみにヒルダはアスガルド編キャラクターで唯一、元ネタ(と思われる神話・伝説の登場人物)から名前が変更されたキャラクターです)
理由として考えられるのは、
昭和時代、TVアニメの対象年齢は基本的に子どもだったので、覚えやすい名前に変更した。
これの裏付けと私が考えるのは、『神々の熱き戦い』予告編の星矢役・古谷徹氏によるナレーションでは
この段階では神闘士はアインヘリヤル=北欧神話のエインヘリヤル、
すなわち主神オーディンによってその宮殿ヴァルハラに集められた死した勇者たちの呼び名を使用する予定だった、と判断できるのですが
公開された映画本編では「(前略)オーディーンを守る勇士のことを、神闘士と呼ぶのです」(フレイの妹フレアのセリフ)となっていました。
同様に、ブリュンヒルデでは覚えにくい・または馴染みが薄いので変更した、という可能性はあります。
("ポラリスのブリュンヒルデ"と呼ぶと、確かに覚えづらくなるうえ語感も悪い。というのはあったのかもしれませんがw)
有名キャラクターになぞらえた
あくまで個人的な憶測で、根拠のある事ではありませんが
先達のアニメ作品のキャラクターにならった名前……という可能性もあります。
1968年公開作品『太陽の王子ホルスの大冒険』には、ヒルダというキャラクターが存在していました。
東映作品であり、当時のアニメ星矢の製作者たちにとって(子供時代見たアニメ映画として)印象に残っていた・好きだった・思い出深い作品だったとすれば、
オマージュのような形で、ブリュンヒルデと名前が一部共通しているのもあって、ヒルダに変更された……ということも考えられるかもしれません。
(ちなみに直接には関係しませんが、ポラリスのヒルダが祈りによって両極の氷が解けるのを防いでいるという設定も
もしかすると『宇宙戦艦ヤマト』に登場したテレサを意識しているのかも……? と思ったりしました)
アニメキャラクターとしての名前の変更理由の推測は、上記で妥当かな? と思うのですが、
実は、ヒルダという名前。
『指環』の主人公格・少なくとも中心人物であり、北欧・ドイツを中心としたゲルマン系民族における著名な英雄のジークフリート
(そもそも、『指環』は最初『ジークフリートの死』という台本として書かれ、その前史を構想するうちに現存する『指環4部作』として膨らんでいったそうです)に
重要なかかわりを持つ女性たち―――
共に英雄ジークフリートを愛し、夫婦となったが死別する運命にあったブリュンヒルデ(ブリュンヒルド)・クリームヒルト、その双方と関係する名前なのです。
(北欧神話での元の形はヒルド、となります)
『指環』ブリュンヒルデの直接の元ネタと思われる、北欧伝説(ヴォルスンガサガ・古代北欧歌謡集エッダ)のブリュンヒルドは
スノッリのエッダ第二部『詩語法』に取り上げられたとき
シグルズ(ドイツ伝説ではジークフリートに当たる)は馬に乗って山の上の一軒の家のところまでやってきた。
その中に一人の女がねていて、女は兜と鎧をつけていた。シグルズは剣を抜くと、女から鎧を切り取った。すると女は目をさましヒルドと名のった。
彼女はブリュンヒルドと呼ばれ、ヴァルキューレだった。
ヒルドと名乗っています。
古代北欧歌謡集の『エッダ』収録「ブリュンヒルドの冥府への旅」には、
「(前略)わたしのことを知っている者はみな、兜をつけたヒルドと呼んでいた。」
ヒルドと呼ばれていたことを語る一節が出てきます。
つまり、ブリュンヒルドの別名または"本名"がヒルドである可能性があるのです。
その場合、ブリュンヒルドは北欧神話や伝説でたびたび名前の登場するヴァルキューレ・ヒルドと同一人物である可能性が浮上します。
ヴァルキューレのヒルドは『エッダ』では「巫女の予言」「グリームニルの歌」に複数挙げられたオーディンの娘・
またはオーディンの侍女であるヴァルキューレの一人として登場し、その名は"戦"を意味します。
またアイスランドの伝統文学・サガの中で最も長大と言われる『ニャールのサガ』終盤にも馬に乗ったヴァルキューレたちが登場し、機織りしながら歌を歌っています。(157章)
その中にヴァルキューレの名前が4つ登場し、ヒルドも出てきます。
ヒルドにヒョルスリムル サングリーズにスヴィポル
抜身を持ちて機織りにかかる
槍の柄は鳴り 楯は響き 兜の犬(剣のケニング(言い換えのこと))は楯に当たる
ヒルド以外の名前は『エッダ』には登場していません。
それを考えると、ヴァルキューレの中で頻出しているヒルドの名はメジャーなものであった、と言えるかもしれません。
一方、中世ドイツ英雄叙事詩『ニーベルンゲンの歌』におけるジークフリートの妻であり、彼の復讐を遂げるクリームヒルトは
ジークフリートが暗殺された後、エッツェルという王の妻になるのですが
このエッツェル王のモデルは、史実でフン族の王であるアッティラ(406年?-453年)とされています。
アッティラは北欧伝説ではアトリの名で登場し、そちらではグズルーンと呼ばれるジークフリート≒シグルズの寡婦と結婚してのち
グズルーンの親族を殲滅したため彼女に殺害される役割を負っています。
史実のアッティラは(部族は一夫多妻制だったそうですが)イルディコというゲルマン民族の若い女性を娶り、
婚礼の翌朝に"大量出血で亡くなった"と年代記に記されているため(大量飲酒が死因、と考えられることもある一方)、
イルディコが殺害者だったのではないか? と考えられ
北欧伝説に繋がったのだそうです(『ニーベルンゲンの歌』では、クリームヒルトとエッツェル王はそうなっていませんが)。
イルディコはヒルド(またはヒルトヒェン)と同じ名前とされています。
このように、ブリュンヒルドは神話=現実には存在していないヴァルキューレと同一視があったのかヒルドと呼ばれ、
クリームヒルト≒グズルーンは、歴史書に登場した実在の人物であるイルディコ=ヒルドをモデルにしていました。
ポラリスのヒルダの元ネタそのものについての考察は以上となるのですが、
ここからはさらにヒルダのイメージと合致する、と私の考える"元ネタ"を、『指環』やゲルマン神話関連から追求していきたいと思います。
ポラリスのヒルダの直接の元ネタと思われる『指環』のブリュンヒルデは、神々の王ヴォータンが大地の女神エルダに産ませた子となっています。
つまり、『指環』ブリュンヒルデは天の男神(『指環』のヴォータンは劇中"(自分は)嵐を支配する(神)"と歌っています)と大地の女神の娘、
すなわち純正な女神ということになり
元ネタである北欧神話のヴァルキューレに比べると、相当格上げされた高位の神、ということになります。
言うなれば、『指環』の"天と地の娘ブリュンヒルデ"がポラリスのヒルダのモデルなら、
それこそ星矢世界での神(ゼウス)の娘アテナ(女神)に匹敵する存在となる。と言えるわけです。
(ギリシャ神話のアテナはゼウスとメティスの娘。知恵の女神とされるメティスはそれぞれ海の巨神族オケアノスとテテュスの娘なので、
海の妖精オケアニデスの一員と考えられる、つまりアテナは天空と海の娘になるのでしょうか。)
ヴァルキューレは古代北欧歌謡集『エッダ』を見る限りでは、オーディンの娘と呼ばれていることもあるものの出自がはっきりせず、
さらに人間の娘が何人もヴァルキューレとして働いているような言及さえあり、
(ちなみに人間のヴァルキューレは必ず王の娘=王女です。つまりはオーディンの信奉者が娘を奉公させた・またはオーディンがスカウトしたwという可能性もあります)
北欧神話の神の世界におけるステータスはどんなものなのか? 相当曖昧なのが現状です。
唯一の例外は、スノッリのエッダ『ギュルヴィたぶらかし』での運命の女神スクルドへの言及。
(前略)スクルドという運命の女神のうちのいちばん末の者が、たえず馬にまたがって戦死者を選び、戦いの決着をつけるのだ。(36章)
スクルドはヴァルキューレも兼ねている存在であることが明言されています。
これは「巫女の予言」に、ヴァルキューレの紹介で真っ先にスクルドの名前が挙げられているのが関係しているのでしょうか?
考えてみれば、スクルドが所属する運命の女神ノルン(ノルニル)も、誰の子であるという言及・
つまり出自を確定する言葉が、北欧歌謡集『エッダ』『スノッリのエッダ』共にないんですね。
『エッダ』「巫女の予言」に登場する"(神々の黄金時代を終わらせた)手ごわい三人の女巨人"がノルンではないかという説もありますが、
明言されているわけでもないので……。
一方、『指環』では第三夜『神々の黄昏』冒頭に登場する運命の三女神は大地の女神エルダの娘たちになっていて、
つまりブリュンヒルデとは異父姉妹の間柄、ということになるわけです。
(余談ですが、北欧神話で『指環』ブリュンヒルデと同じ立場・つまり天の男神(オーディン)と大地の女神(ヨルズまたはフィヨルギュン・フロージュン)の子という
高位の神は雷神トールになりますね(笑) )
そして、『指環』におけるブリュンヒルデのもう一つの重要な点は、愛と母性に溢れた女性として描写されているところです。
石川栄作『ブリュンヒルデ―伝説の系譜』には次の一節があります。
(第二夜『ジークフリート』クライマックスにおいて)ジークフリートがブリュンヒルデの話を聞いているうちに、
彼女を一瞬母親だと錯覚してしまう場面は、ワーグナーの独創的な部分である。
ワーグナーにおいてブリュンヒルデはジークフリートにとっては伯母であり、妻でもあるが、同時にこの場面のように母親と考えてよいかもしれない。
ブリュンヒルデがこのようにジークフリートに対して母性的な愛を抱いているところもワーグナーの特徴の一つである。(P180)
『指環』でジークフリートの実際の母親はジークリンデですが(ブリュンヒルデが伯母というのは、ジークフリートの両親ジークムントとジークリンデは
ブリュンヒルデの父である神ヴォータンが人間の女性に産ませた子供・つまりブリュンヒルデの異母弟妹なので)、
ブリュンヒルデはお腹の子もろとも命の危機にあったジークリンデを救い、(彼女同様ヴァルキューレである妹たちと共に)お産ができるよう取り計らい、
なおかつお腹の子にジークフリートの名を与える(名付け親になる)、という"ワーグナーの独創的な部分"に当たる母親的要素をふんだんに付け加えられています。
(元ネタである)ヴァルキューレと一線を画した高位の女神であり、同時に愛と母性に溢れた女性である。
こういった要素が、おそらくポラリスのヒルダの参考(元ネタ)になっている(象徴的なのがアニメ第77話でフェクダのトールを救い傷を治癒する場面)のではないでしょうか。
そして、北欧神話と違って明確な物語や形式が残っていないゲルマン神話にも、
ヴァルキューレ(ブリュンヒルデ含む)や大地の女神に関連を持つと思しき存在について語られた伝説が残っています。
グリム童話で有名なグリム兄弟には、『ドイツ伝説集』という著作がありますが、
この中に、"ホレさま(ホラさま)"〔ドイツ語:FRAU HOLLEN ODER HOLLA"〕と呼ばれる女性の精霊についての伝説がいくつかあります。
語られていることをまとめてみると、ホレさまはある山に住み、聖なる泉を持ち、巡礼にやってくる女性たちに子供を授け、
彼女が布団をはたいたら雪が降る、と考えられていました。
時には山を出てあちこちの土地を巡り歩いては人々に祝福を与えますが、怠けている者には罰を与えるとされます。
その一方で「荒ぶる軍勢」の先頭に立ち、人々を驚かせもするそうです。
グリム兄弟はこの"ホレあるいはホラ"を"古代ゲルマンの豊穣の女神ホルダ"と考えました。
ホルダは主神ヴォータンの妻であり、ゆえに(キリスト教化ののち悪魔として扱われた)「夜の狩人の群れ」「天の魔群」として
ヴォータンや配下の魔物たちと共に空を駆け抜けていく、嵐を呼ぶ魔物としても扱われたのが「荒ぶる軍勢」の一節に当たるのでしょう。
またグリム兄弟は、ホルダをペルヒタ(またぺルヒト)という女性の精霊
(四季の移り変わりに従って、「美しいペルヒタ」「醜いペルヒタ」に変化する)とも同一視していました。
このペルヒタも『ドイツ伝説集』によれば、暗黒面または零落した姿として"妖女・(毛むくじゃらの)
鉄のベルタ、そして「ヒルダ・ベルタ」ともいうのだそうです。
"ホレさま"がたびたび聖なる泉と結び付けられているのを見ると、『北欧とゲルマンの神話辞典』に出てくる次の精霊も、名前からして
ルーツはホレさま=ホルダなのかもしれないと思えてきます。
ヒルデ(HILDE) ドイツ、チューリンゲン地方の水の霊。青い髪を持ち、歌で相手を惑わせる。
特徴はローレライ・セイレーンの亜種って感じですが、名前がヒルデ、かつ青い髪、というのがなんとも(笑)
大地女神・雪を降らせる(山の)女神・聖なる泉を持つ女神・(天神の夫と共に)夜空を嵐や風として駆けるもの・
自然の精霊・その闇の面としての妖女・青い髪を持つ水の霊。
ホルダ≒ペルヒタのこれらの要素は、北欧のヴァルキューレや、オーディンを通して彼女らとつながるフレイヤ(フリッグ)ら、大地につながる豊穣の女神と通じているように思います。
大分強引なまとめになったかもしれませんが(^^;)
そして雪を降らせる・水に関連する、をこれまた強引に祈りで北極海(と南極)の氷を保つヒルダ要素につなげられる、というわけです。
考えてみればアスガルド編第75話のイメージイラストでは、地球そのものにニーベルンゲン・リングがはまっていました。
(第74話で指輪っつーにはデカすぎだろうがよ(はめられたシーンね。強調したイメージなんでしょうけど)と当時も思ったもんでしたが、
さらにデカくなっていますねw)
これは地球≒人間世界がニーベルンゲン・リングによって危機に陥ったのを示すと同時に、
ある面で地球の守護者であり、大地女神のようなヒルダを重ね合わせたシーンだったのかもしれません。
参考文献
『エッダ ――古代北欧歌謡集』谷口幸男・訳 新潮社
スノリ『エッダ』「詩語法」訳注 訳・谷口幸男『広島大学文学部紀要43 特集号3』
『ブリュンヒルデ―伝説の系譜』石川栄作 教育評論社
『アイスランド サガ』谷口幸男・訳 新潮社
『トールキンのシグルズとグズルーンの伝説〈注釈版〉』小林朋則・訳 原書房
『「ニーベルンゲンの歌」の英雄たち』W・ハンゼン 金井栄一・小林俊明 訳
『ゲルマン北欧の英雄伝説 ヴォルスンガ・サガ』菅原邦城・訳、解説 東海大学出版会
『グリム ドイツ伝説集』吉田孝夫・訳 八坂書房
『ヨーロッパの神と祭 光と闇の習俗』植田重雄 早稲田大学出版部
『北欧とゲルマンの神話辞典』クロード・ルクトゥ 篠田知和基・監訳 広野和美、木村高子・訳 原書房
『萌える! ヴァルキリー事典』TEAS事務所 株式会社ホビージャパン
『関西の皆様 パンフレットにしてすんまへん。翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』
『ギリシア・ローマ神話辞典』高津春繫 岩波オンデマンドブックス
「氷雪の女王/時の封土」ブックレット(1993年コロンビア)
ヴォータンはゲルマン神話の主神。北欧神話のオーディンに相当します。
このナレーション付き予告編映像は、『聖闘士星矢 THE MOVIE BOX』のDVDには映像特典として収録されています。
2023年公開の映画『翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて』において、祈りで砂を浄化しているという設定のキャラクターが登場し
えっもしかしてヒルダが元ネタ!? とか先走っていたら、パンフレットには"松本零士作品のオマージュ"とあったので(^^;)
実はポラリスのヒルダの方も、同様にヤマトのオマージュ……具体的には"祈りを捧げる女性"テレサかもしれないと推測。
テレサが初登場した映画『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』は1978年8月5日公開だそうで、アスガルド編放送のほぼ10年前になるんですね。
作家・栗本薫の大河ファンタジー『グイン・サーガ』には北欧神話要素を取り入れた外伝(4)『氷雪の女王』があり、
そのイメージアルバムCD「氷雪の女王/時の封土」(1993年コロンビア)解説書には、作中の北欧神話要素の解説が載っています。
「ヴァルキュリアはまたの名をヒルドといい、「ニーベルンゲン」では、英雄ジークフリートをめぐってブリュンヒルドとクリームヒルドの二人が争う。(参考:『虚空の神々』新紀元社刊 建部伸明と怪兵隊著)」
ここではヴァルキュリア(ヴァルキューレ)はまるで固有名詞のように書かれていますが
(『指環』第二夜「ジークフリート」ではワルキューレ=ブリュンヒルデの代名詞のように歌われているシーンもありますが)、
それをヒルドとしてブリュンヒルド・クリームヒルドとつなげているのが興味深いです。
(ついでのネタバレ要素ですが、グイン・サーガ外伝に登場したヴァルキューレたちは、男の旅人を誘い込んで食い殺すという鬼婆的存在でしたw)
『詩語法』46~51章では、"黄金"のケニング(言い換え)である「川うその償い」「グラニの荷」「ニヴルングの宝または遺産」等の説明として、
北欧英雄伝説『ヴォルスンガ・サガ』と大筋は同じ物語が語られます。
ただ『ヴォルスンガ・サガ』の本文の方が、ブリュンヒルドが眠っていた理由・眠っていた場所の呼び名や様子などを詳しく書いています。
その『ヴォルスンガ・サガ』24章では、ブリュンヒルドは鎧兜をつけて戦場に出ていたため「鎧の女(ブリュン・ヒルド)」という名で呼ばれた、とあります。
(余談ながら、この前の章(21章)で出会ったブリュンヒルドとは描写が色々食い違っているので、おそらく21章は
古代北欧歌謡集『エッダ』に登場したヴァルキューレのシグルドリーヴァをブリュンヒルドに変えてくっつけただけのものでしょう。)
ここで登場したヴァルキューレたちの使う機織り台は「人間の首が錘(つむ)に、人間の腸が横糸とたて糸に、矢が梭(ひ)に、剣がおさ(筬)代わりになっていた」
そして糸巻き棒は血まみれの槍。完全にグロホラーです(笑) これ(腸でできたの)はオーディンの織物だそうです。
『萌える! ヴァルキリー事典』はこの『ニャールのサガ』のヴァルキューレの歌を「槍の歌」と呼んでいましたが、「オーディンの織物の歌」の方が適切なのでは?
という気がしてきますが。
『萌える! ヴァルキリー事典』の「ヴァルキリー人名録」によると、ヒルドに続くヴァルキューレたちの名前の意味は
ヒョルスリムル=剣の女戦士 サングリーズ=とても乱暴な スヴィポル=気まぐれな になるそうです。
(ただ、ラストのスヴィポルは 揺れる(・打つ)・swing=古ノルド(北欧)語 svipan 一掃する・sweep=古ノルド語 sveipa
のどちらかが近そうな気もしますが……。)
モンゴル・トルコ系騎馬遊牧民族で、中国史の匈奴と同一とも考えられているフン族は、4世紀後期ヨーロッパに侵入。
東西ゴート族を圧迫することで、民族大移動の原因となりました。
アッティラはその王で、カスピ海からライン湖畔に至る地域を支配し、ローマ帝国と争いましたが(広辞苑より)
451年、カタラウヌムの戦いでローマ・ゲルマン連合軍に敗れています。(『最新世界史図説 タペストリー 十九訂版』(株)帝国書院 より)
ただヒルダ本人はアテナ=城戸沙織同様の神(たとえばオーディーンの娘)の転生なのか? エルフ的な妖精・高次の存在なのか?
それとも常人と違う能力はあっても人間なのかは不透明……要するに明確な設定がなく曖昧な状態なのですが、
TVアニメ本編第75話のタイトルは『ヒルダ! 悪魔に魅入られた女神』となっています。
また妹のフレアには子供時代の描写があります。ここで子供のフレアが「お姉さま」と口にしていても、ヒルダには子供時代の描写・設定画はありませんが。
ほかに、メグレスのアルベリッヒの6代前の先祖・アルベリッヒ13世は家訓として"アルベリッヒ家に生まれし者はヒルダ様を守る宿命"と書き残しており、
200年以上前に若き日の老師(
ヒルダは200歳以上、かつ若い見た目であり続けている……となり、どう考えても普通の人間ではなくなりますが(笑)
(これまた確定できる要素はアニメ本編にないものの)まあ、オーディーンの地上代行者とは代々ヒルダと名乗る(特殊能力を持った人間の)女性たちなのだろう、
と私は判断しています。
『エッダ』「ヴェルンドの歌」冒頭に登場し、鍛冶屋のヴェルンドら三兄弟の妻となった3人のヴァルキューレはいずれもある王の娘であり、
"白鳥の羽衣"で飛行していたのを脱いでいたとあります。つまり、日本の羽衣伝説と似た感じですね。
『エッダ』のブリュンヒルドも、ある王に姉妹ともども羽衣を奪われて忠誠を誓ったと言っていて(「ブリュンヒルドの冥府への旅」より)、
ヴァルキューレには馬で登場するパターンと、羽衣で白鳥に変身するパターンがあるようです。
ちなみに、トールの母である大地女神をヨルズと呼んでいるのはスノッリだけ(つまり登場するのはスノッリのエッダだけ)で、北欧歌謡集『エッダ』では
フィヨルギュンまたはフロージュンになっています。ヨルズは古ノルド(北欧)語で大地を意味する言葉です。
一方『指環』のエルダは、ドイツ語 Erde(大地)を女性名のようにした名前なので、名前の成立についてはヨルズと同系列、ということになります。